 高周波数精度・分解能テラヘルツ分光スペクトル測定装置 |
シード光としての半導体レーザーとファイバアンプを組み合わせて励起光とし、周波数精度の高い連続波テラヘルツ光源を
実現しました。
半導体レーザーとファイバアンプの組み合わせは光通信と同様で、メンテナンスフリーで数年間連続使用が可能です。
連続波ではピークパワーが小さいので検出が難しくなりますが、極低温ボロメータを利用することで高感度に検出できます。
ここで採用した機械冷凍機式ボロメータは液体ヘリウムフリーで連続使用可能です。
結局、この連続波テラヘルツ分光スペクトル測定装置は、高周波数精度・高周波数分解能(約6桁の精度)という特徴に加え、
24時間365日ノンストップで稼動しているので、いつでも測定することができます。
差周波発生法の場合、テラヘルツ波の周波数絶対精度は励起光2波間の周波数相対精度に対応しますので、励起光周波
数の絶対精度を追求する必要はなく、比較的簡便にテラヘルツ波周波数の高い絶対精度が得られます。
T. Sasaki et. al., Optics and Photonics Journal Optics and Photonics Journal, 4, p.8 (2014)
T. Sasaki et. al., J. Jpn. Soc. Infrared Science & Technology 26, p.74 (2016)
 微量不純物検出・定量 |
高周波数精度テラヘルツ分光スペクトル測定によって、不純物の影響によるテラヘルツ吸収スペクトルの周波数ピーク
シフトを精密に計測し、微量不純物を定量的に計測します。
現在までにppmオーダーの検出限界を確認しており、主に医薬品の混入不純物検出・定量への利用を想定しています。
微量不純物の検出には液体クロマトグラフィなど化学的検出法が用いられることが標準的です。
しかし、液クロには苦手な対象があり、類似分子種や分子量が近い分子の識別、そして大きい分子量の分子です。
医薬品を想定する場合、有効成分(API)の不純物としては出発原料や副生成物、中間体、分解生成物などAPIに近い
分子が想定されますので、まさにこれに相当します。
本手法は不純物分子そのものを検出するのではなく、不純物分子が母結晶(つまりAPI結晶)に与える影響を検出する
という原理であり、分子種や分子量に依存しないので液クロを補完する新規的手法になると期待されます。

T.Sasaki, et al., Anal. Chem. 90, p.1677 (2018)
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 中分子医薬品の評価 |
従来の医薬品よりも分子量が大きく、分子量 400 ~ 4,000 程度の医薬品を中分子医薬品と呼びます。
細胞膜透過性が小さいために選択性が高いので、副作用が小さい医薬品として期待されています。
更に分子量が大きいバイオ医薬品(タンパク質)は培養で製造するために大量生産に向きませんが、中分子医薬品は
化学合成により製造されますので大量生産が可能で低価格化できます。
このような中分子医薬品は室温測定ではほとんど明瞭なスペクトルは観測できないのですが、低温にすることで多数の
非常にシャープなスペクトルが観測できるものがあることを発見しました。
これを利用すると、上述の手法による微量不純物検出や結晶性評価はより高感度となり、更にはその微量不純物分子
の識別まで期待できます。
T. Sasaki et al., J. Infrared, Millimeter, Terahertz Waves (2018)
 医薬品の分光吸収スペクトル結晶異方性を用いた分子振動帰属解明 |
単結晶の分光スペクトルと量子化学計算によるIR振動の計算を結晶異方性を利用して精度高く比較・照合することで
信頼性の高い分子振動モード帰属解明ができます。
必要な単結晶の厚さが数十ミクロンとなるために研磨のような機械加工で作成することが難しいことが課題でしたが、
専用の温度作法による結晶成長装置を自作し、この装置を用いることで専用セル中に任意形状の単結晶を作成して、
そのセルごとテラヘルツ分光スペクトル測定が可能となりました。
テオフィリンは筋弛緩剤の一種ですが、通常水溶液からはテオフィリン水和物が結晶成長します。
しかし、71℃以上ではテオフィリン水和物と無水物の飽和溶解度が逆転するため、71℃以上の成長温度とすることで
水溶液中からにもかかわらず無水物単結晶(1 mm × 5 mm × 67 μm)が得られました。
理論計算は自作のクラスタPC(最大32ノード)を利用し、周期境界条件によって得られる結晶状態について、DFT理論
を用いた第一原理計算で構造安定化を行い、基準振動を求めます。
これらを利用して求めたテオフィリンのテラヘルツ帯分子振動モードの例をアニメーションで示します。
0.796 THz
1.212 THz
1.235 THz
1.955 THz
3.993 THz
4.170 THz 
T.Sasaki, et al., Vibrational Spectroscopy, 85, p. 91 (2016)
 テラヘルツ分光イメージング |
テオフィリン水和物と無水物は基本的な結晶形も異なり、テラヘルツスペクトルにも大きな差があります。
テオフィリン水和物の一箇所から熱を加えると、その部分から徐々に水分子が抜けると同時に無水物に転移します。
透過率差の大きい 2.74 THz の単色光テラヘルツ波でイメージングすると、その変化がはっきり観察できます。
喘息の薬となるテオフィリンは実際の製造でも、最終工程でテオフィリン水和物を無水物に乾燥させていますので、
この技術を用いると乾燥工程の完了をモニタすることができます。
テオフィリンとテオフィリン水和物のテラヘルツ透過率スペクトル
 高強度連続波単色テラヘルツ光源の開発 |
上記のような分光イメージングでは高強度な単色テラヘルツ光源が求められます。
差周波発生法では励起光の強度に比例してテラヘルツ波が発生しますので、高強度レーザーを用いればよいことになります。
ソルダリングなどに用いられる汎用の加工用ファイバレーザーが適していましたので、これを励起光に適用したところ約100倍
のテラヘルツ波強度が得られるようになり、感度の低い室温検出器でも十分測定が可能になりました。
GaP 結晶が加工されること(つまり損傷)が心配されましたが、欠陥のない結晶は励起レーザー光をまったく吸収しないので
何の問題もありませんでした。
ここには1960年代から培われてきた半導体完全結晶成長技術が活かされていると言えます。
ファイバレーザーは小型・高強度・低消費電力・メンテナンスフリーであることに加え、非常に安価です。
ファイバ結合になりますので、テラヘルツ光源ヘッド部は非常に軽量・コンパクトになります。
イメージングシステムにはチョッパーも不要で安価な検出器も使えるので、下に示すような小型・高強度テラヘルツ分光光源・
イメージングシステムを低価格で構築することができました。
小型・高強度テラヘルツ分光光源・イメージングシステム